朝鮮によるロケットの発射と日米韓の温度差

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2009年4月5日、朝鮮が人工衛星運搬ロケット「銀河2号」を発射し、人工衛星「光明星2号」の軌道投入に成功した、と報じた。ラヂオプレスが伝えた朝鮮中央放送(国内向けの放送)では、衛星管制総合指揮所を訪れた金正日総書記は科学者らに対して「たった一度の打ち上げで人工衛星を軌道に正確に進入させ、われわれの主体的な科学技術の威力を誇示した」と科学者を賞賛し、「宇宙空間の征服と平和的利用の分野において新たな転換をもたらすべきだ」との指導を行ったとのことだ。


日本や米国、韓国は今回のロケットの打ち上げを弾道ミサイル技術開発の一環としてとらえ、朝鮮に対し「いかなる核実験又は弾道ミサイルの発射もこれ以上実施しないことを要求する」ことをうたった国連安保理決議第1718号に違反するとして、朝鮮を非難している。

中国やロシアは、朝鮮が今回のロケット打ち上げを人工衛星の発射のためだとし、国際海事機関(IMO)や国際民間航空機関(ICAO)に打ち上げの事実を通報し、2009年3月12日付の『朝鮮中央通信』が「月その他の天体を含む宇宙空間の探査および利用における国家活動を律する原則に関する条約」(宇宙条約)と「宇宙空間に打ち上げられた物体の登録に関する条約」(宇宙物体登録条約)に加盟したと報道したように、人工衛星の発射のための国際的手続を踏んだことから、今回の一連の活動を弾道ミサイルの発射実験と解釈することには難色を示している。


今後、国連安保理を舞台に外交戦が繰り広げられていくことになろうが、ここで注意しなければならないのは、朝鮮の今回の打ち上げを非難している日米韓の温度差だ。

米国は4月5日のプラハでの核不拡散に関するオバマ大統領の演説の中で「違反には懲罰があるべきだ」とロケット打ち上げを容認しない姿勢を表明し、ライス国連大使は国連安保理の緊急会議後に「何が打ち上げられたかは問題ではない。打ち上げられた事実自体が決議違反だ」と厳しく非難する発言をしている。しかし、ロケット発射前々日の4月3日に米国のボスワース朝鮮担当特使は記者会見の席で、六カ国協議を中心とした朝鮮との対話を推進していく立場を表明している。対テロ戦争を戦う米国としては国際社会に対しては脅しに屈さない毅然とした姿勢を見せつつも、対話は開いておくというやり方だ。

韓国政府は、「北韓長距離ロケット発射に対する大韓民国政府声明」を外交安保政策調整会議議長・外交通商部の柳明桓長官が発表した。この声明で韓国政府は朝鮮のロケット発射は「国連安保理決議1718号に明白に違反することであり、北韓のどのような主張にも関係なく、朝鮮半島および北東アジアの安全と平和に脅威を与える挑発的行為です」と非難している。同時に「北韓が慢性的な食糧不足を解消することができる莫大な費用をかけて長距離ロケットを発射したことに対して、わが政府と国際社会は大きく失望しています」と朝鮮の行動が国民の生活の質の向上に資するものではないと非難している。しかし、4月3日にロンドンで開かれた韓中首脳会談で、李明博大統領は「南北関係がいろいろな状況になっているけれども、韓国政府は開かれた心で対話する準備ができている」と表明している。ロケット発射という北東アジアにおける安全保障に脅威を与える行動に対して、また朝鮮の国民の生活の質を下げる行動に対して強い態度で非難しつつも、対話の準備ができているという両面性を持った行動となっている。

これに対して、日本政府は3月27日にさまざまな技術的制約がありながらも「弾道ミサイル破壊措置命令」を出した。国内での報道は、ミサイル防衛システムの限界について深く掘り下げるものは少なかった。発射のずいぶん前から「北朝鮮が衛星打ち上げと主張する弾道ミサイルの発射」などの表現が使われ、まるで戦争が起こるような雰囲気が作られてきた。発射後には、自民党の細田博之幹事長が4月6日に国会内で開かれた政府・自民協議で、「人工衛星だろうと何だろうと関係ない。日本を飛び越えたこと自体がわが国に脅威で、人工衛星が軌道に乗っていないとの議論はとらえ方が甘いのではないか」などと日本に対する脅威を強調し、あたかも一方的に攻撃を受けたかのような受け止め方をしているものが多い。そして米韓との最も大きな相違点は、対話についての言及が全くないことだ。

中ロはもとより、米韓も朝鮮との独自の対話ラインを持ち、うまくいっているかどうかは別として朝鮮との対話を行っているのに対し、日本は2006年2月に開かれた第1回日朝包括並行協議以来、拉致問題以外の議題で朝鮮との対話を行っていない。日本政府の拉致問題に偏った政策が現在のような日朝対話不在、外交不在の状況を招いてしまっているといえる。アメリカや中国でさえ発射を思いとどまらせることができなかったことを日本ができたかと言えば難しいのが現実だが、日本の考えを伝えるチャンネルがなかったのは、残念なことだ。


以上のように、米韓は朝鮮を非難しつつも対話を行う準備と戦略、そしてそのチャネルを持っている。しかし、日本は対話について言及できないほど関係が悪化している。今後の六カ国協議においての駆け引きを有利に行うためにも日本は朝鮮との対話を行う準備と戦略、チャネルを用意していく必要がある。「朝鮮なんかと対話をしても意味がない」という声が聞こえてきそうだが、忍耐強く話し合いを進めていく外交を放棄したところで、日本は得るものがない。長く困難な道のりを経て初めて、日本が追求する利益を実現することが可能になるのではないだろうか。

では、日本が追求すべき利益とは何なのか、国民の生命、財産の安全はいうまでもない。それ以外にもいろいろある。それについてはまた別の機会にふれてみたいと思う。

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