2006年8月アーカイブ

 ミサイル発射を受けて、勤務先で日本単独による対北朝鮮経済制裁の効果と課題というレポートをまとめた。このレポートは、2004年までの貿易データを元にして、日本の朝鮮に対する経済的影響力が低下しており、日本が単独で経済制裁を行っても、その効果は長く続かないという内容であった。

 韓国のKOTRAから2005年の貿易データの暫定値が発表されたが、これを見ると日朝貿易が朝鮮の貿易総額に占める割合は5%を切り、中国、韓国、タイ、ロシアに次いで5番目に転落した。このグラフを見ると、2001年には朝鮮の第2の貿易相手国であった日本の割合が下がっていることが分かる。

 拉致問題が日朝関係のメインイシューになる中で、日本の朝鮮に対する経済的な影響力は貿易から見る限りかなり低下した。経済制裁を外交カードとして使おうと準備はしてきたものの、そのカードを切る時点ではカードの有効性が低下してしまった。その意味では、日本が拉致問題に集中しすぎてしまったために、朝鮮の核兵器やミサイルの問題解決を遅らせてしまったということもできよう。

 日朝関係を打開する意味で、経済制裁を外交カードとして使おうとするなら、朝鮮に対する日本の経済的影響力を上げなければ、カードを切る意味がなくなってしまう。現在報道されている、制裁一色の対応は、外交カードとしての経済制裁ではなく、行き詰まった日朝関係に対する日本国内のストレスの発散の要素が強いのではないだろうか。

 国内のストレス発散のために、朝鮮に対する制裁の議論をするとすれば、外交カードのために制裁ができるようにするという、当初の経済制裁関連法案の趣旨は吹き飛んでしまう。それだけではない、朝鮮との関係正常化を行うための交渉を行う準備も全く行われておらず、「圧力と対話」の政策が圧力だけになってしまっている。

 日本が望んでいることを朝鮮に聞いてもらうには、朝鮮側が利益になるカードも用意しなければならない。小泉首相は、国交正常化とそれにともなう経済協力というプラスのカードを用意して、第1回日朝首脳会談に臨んだ。これが拉致事実の認定と謝罪につながった。日本外交は日本の持っている「お金」という力を利用して、朝鮮のトップに拉致を認めさせた。

 現在の膠着状態を解決するには、日本が自らが持っている力をうまく利用して、朝鮮との交渉に望む必要があるだろう。前述したように、国交正常化とそれにともなう経済協力は朝鮮経済を復興させる上で重要な要素となりうる。このようなカードをうまく使って、日本の朝鮮に対する経済的な影響力を向上させることが日本が当面行うべき課題ではなかろうか。

呼称問題について

| コメント(2) | トラックバック(0)

 朝鮮問題を語るときに、朝鮮半島の南北にある国をどのように呼ぶかという問題は、南北どちらを支持するかという問題と密接に関連した問題だ。2000年6月の南北首脳会談以降、南北が相互に相手方の存在を承認するようになり、南北間で交わされる合意文書にも「大韓民国」「朝鮮民主主義人民共和国」という正式名称が使われるようになった。

 大韓民国における「韓国」、朝鮮民主主義人民共和国における「朝鮮」という表現は、共に南北両方を含む概念だ。だから南北の地理的区分を語るときにはそれぞれ「南韓」「北韓」、「南朝鮮」「北朝鮮」という表現が使われてきた。また、国の略称としては「韓国」「共和国」という表現が比較的多く使われている。

 日本における朝鮮半島に関連する呼称を見ると、大韓民国のことを「韓国」、朝鮮民主主義人民共和国のことを「北朝鮮」と呼ぶことが一般的になっている。以前、朝鮮民主主義人民共和国が優勢であったころには「南朝鮮」、「共和国」と呼ぶ人も少なくなかった。

 このブログでの書き込みにおいては、南北双方の存在を認め、かつ誤解がないように表現をしたいと思っている。おそらく、日朝国交正常化が行われた際には、「北朝鮮」という表現はなくなり、「朝鮮」になるのではないかと思う。朝鮮半島においても、南北の存在を認めているのだから、日本においても、双方の存在を認めた上で、双方に住んでいる人が不愉快に思わない呼称を選ぶことが賢明だろう。

 そのため、当面の間、このブログでは大韓民国を「韓国」、朝鮮民主主義人民共和国を「朝鮮」と呼ぶことにしたい。大韓民国を「南朝鮮」と呼ぶことも変だし、朝鮮民主主義人民共和国にだけ「北」という文字をつけることも、国家として承認しないという意味を多分に含んでいるので、「北朝鮮」と呼ぶのも変だろう。「共和国」という言い方もあるが、これは朝鮮民主主義人民共和国国内のローカルな言い方で、世界中に共和国がつく国名はたくさんあるので、誤解を招きやすい。

 今後、特別に断りがない限り、「韓国」と書いてあれば、大韓民国のことを、「朝鮮」と書いてあれば朝鮮民主主義人民共和国のことを指すと考えていただければよい。また、地域名称としては、「朝鮮半島」を、言語名としては日本国内での朝鮮半島における言語の学術的名称である「朝鮮語」を使用したいと思う。

ブログ開設

| コメント(0) | トラックバック(1)

 世の中にブログが流行しはじめてから、かなりの時間が経ったと思う。ブログとは何か?ということをあまり考えることなくここまでやってきた。ホームページを作ったのは1996年だったと思うが、2001年に現在の職場に来てから、忙しさにかまけてあまり更新もしなかった。

 私が朝鮮半島の法や経済を研究しながら見る朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)の姿は、2002年の第1回日朝首脳会談以降、特に最近の日本で報道され、あるいは語られる朝鮮の姿とは少し異なる。特に2006年7月5日のミサイル発射以降、強硬一本槍の対朝鮮政策を、「朝鮮はそんなに危険な国なんかなぁ?」という疑問を持ちながら見ている。

 このブログの開設は、そんな疑問をもう少し整理して、私が感じている(あるいは経験した)朝鮮の姿を、このブログを読んでくれる人たちにわかりやすく伝えようと思ったことがきっかけである。7月頭にソフトはインストールしたものの、肝心の運用についてよく分からなかったので、記事を書いたのは8月に入ってからになってしまった。

 はじめからあんまり力んでしまうと後でつらくなってしまうので、あまりえらそうに書くのは止そうと思うが、日本が近い将来、朝鮮(や周辺諸国)と戦争をしないようにするには、どうしたらいいのだろうかと考えた結果、このブログを通じて、少しでも多くの人が朝鮮について考えるきっかけを持ってもらうことがこのブログの目的である。戦争だなんて、えらく飛躍したことを言うんだなぁ、と思われるかもしれないが、「敵基地攻撃論」というのは、実際に戦争をするということである。そうならないように朝鮮とどう交渉を行っていくのか、という話抜きに戦争の話が出てくるのが、今の時代の怖いところだ。

もちろん、日々思っていることを簡単にまとめられるし、いろいろな批判や意見ももらえるということもブログ開設の大きな目的の一つである。けしからんと腹が立った人も、ぜひその根拠を明らかにして、批判として意見をいただければ幸いである。(そういう人の意見こそ聞きたい)

最近のコメント

OpenID対応しています OpenIDについて
Powered by Movable Type 4.25